オフラインとオンラインで講演者が考えるべき聴衆のUX
2021.06.16

オフラインとオンラインで講演者が考えるべき聴衆のUX

 ひょんなことから、講演の依頼が舞い込みました。本編90分+質疑応答30分の、がっつり2時間。オンライン講演会です。ふだん講演を仕事としていないため、いい機会だと、講演者のハウツー本を読み漁ってみました。

ためになる本にも出会えましたが、どれも「オフライン」を前提としており、昨今の「オンライン講演会」に特化した内容のものは(僕の見た限り)ありませんでした。

そして結論から言えば、これまでのオフライン講演会の王道を、そのままオンライン講演会にスライドするのは、聴衆のUXという点で危険ではないかと思われました。

報道スタッフのフィルター

 過去に新聞やテレビ向けのプレスリリースを書く仕事をしたことがあります。マーケティングでは相手の立場になることが重要ですが、それはプレスリリースでも変わりません。新聞社やテレビ局スタッフの立場になれるかどうかが、プレスリリースが採用されるかどうかを左右します。

多くの場合、この「相手思考の無理解」が望む結果への障害となっています。「こんなにいい商品なのに、なんで取り上げてくれないんだ!?」や「たくさんの人の問題を解決するに、どうして取材されないんだ!?」という不満は、今日もあちらこちらで発生していることでしょう。

もちろん、本当に画期的で、前代未聞の大発明なら、日本中からメディアが押し寄せてきます。でも、そういったものは滅多とありません。では、だいたい同じくらいのニュース力だとして、取材されるものとされないとでは、なにが違うのか。

それは、報道スタッフの頭のなかのある「3つのフィルター」を通過できているかどうかです。

社会性 × 貢献性 × ?

 言うまでもないことですが、どんなメディアも無料で僕やあなたのこと(商品やサービス)を広告するつもりはありません。あくまでも彼らは、自分たちの「ニュース」としてそれを取り上げます。まず、この大前提を理解しておく必要があります。

その上で、採用されるプレスリリースには「社会性」と「貢献性」があります。「今の時代」を反映するものだからこそ「ニュース」になります。そして「社会課題を解決するもの」だからこそ、広く伝える価値があります。

でも、さらにもう一つ、見過ごされがちなポイントがあります。それは特にテレビというメディアでは重要で、ここを押さえているかどうかが、プレスリリースの採用率に圧倒的な差を生みます。

それはなにか? 「画になるか=画力」です。

テレビとは画で伝えるメディア

 テレビのテレビたるアイデンティティは、画にあります。だからこそ、火事があった、事故があったというとき、わざわざ現場に行って「画」をとります。その画に力があればあるほど、彼らは歓喜することでしょう。どんなに衝撃的なニュースでも、画がなければ「商品」にならないからです。

……と散々プレスリリースの話をしたところで、今回の主題であるオンライン講演会にいよいよ戻りましょう。いやあどうも、お待たせしました(講演会でも、前置き(自己紹介)が長いと怒られましたっけ)。

さてさて、『はじめて講演を頼まれたら読む本』的なものを読み漁ると、大まかな共通点が浮かび上がってきました。

(1)「オープニング・本編・締め」の三部構成
(2)5分ほどの話のいくつもの組み合わせで講演にする
(3)知識ではなく経験(実体験)を土台にする
(4)スライドは極力使わない

こんな具合です。どれも納得できます、が、最後の「スライドは極力使わない」に関してだけ、僕は従いませんでした。理由はそれこそ「オンラインだから」です。

オンラインには画力がいる

 あくまで僕の感覚ですが、オフライン講演会とオンライン講演会の一番の差は、スライドの重要性にあるのではないかとにらんでいます。

オフライン、つまり自分が生身の人間として会場に座り、相手も生身の人間として眼前にいる。そういった状況では、たしかに次から次へとスライドが変わっていくより、じっくり話をしてもらった方が集中できます。

ではオンラインでも同じかというと、僕は懐疑的です。三次元から二次元へと、情報が激減しています。それを補わずに、同じことをやると多様な面でのインプット量が足らず、注意と意識を引きつけつづけられないのではないかと思うからです。

参加者が自分のカメラをオフにしているのなら、なおのこと。緊張感や臨場感(そして責任感)が情報量と共にごそっと削られているわけですから、やはり別のなにかで補うべきです。

シンプルに次々に

 というわけで、僕は当初数枚の予定だったスライドを、最終的には10倍以上の125枚用意しました。でもその大部分は、一行か二行の、ワンセンテンスだけのスライドです。情報量を詰め込んだものは、故意にそうしたものだけです。

デザインの勉強をしていたとき、りんごの絵の下に「りんご」と書いてはいけない、と教わりました。無駄なことだし、なにより見る相手を馬鹿にしている、と。

講演スライドも同じです。話す内容をスライドに書いているのは、無駄なことですし、相手を馬鹿にしています。スライドには話の「小見出し」を書き、内容は聴かなければわからない、というのが、いい塩梅なのではないでしょうかね。僕のように、話術に自信がないのであれば、なおのこと。

オフラインとオンラインでは情報量が圧倒的に違う。そのままスライドさせていいUXかどうかは、きちんと相手の立場で考える。

関連記事