頭のスイッチと心のスイッチ。ユーザーフレンドリーなUXはどっち?
2021.05.12

頭のスイッチと心のスイッチ。ユーザーフレンドリーなUXはどっち?

 あなたがマーケターでなくとも、「付加価値」という言葉は知っているだろう。では、付加価値は2つの要素の因数分解できることは知っていただろうか。「機能的価値」と「情緒的価値」だ。

機能的価値とは、「安い」「便利」「速い」と言った実利的な機能をもたらすもの。一方で情緒的価値とは、「かわいい」「好き」「ワクワクする」といった感情的な作用をもたらすものを指す。双方の価値は分けて考える必要がある。

私たちのアルゴリズムがスイッチを押す

 当たり前の話だが、私たちがモノやサービスを求めて行動を起こすのは、「欲しい!」スイッチが入ったときだ。

仮に、新しいゴルフクラブを「欲しい!」と思うのは、どんなときだろうか。一つは、新製品の機能(飛距離が伸びるとか、スライスが止まるとか、そういう実利的な機能)に必要性を感じた場合だ。でも、それだけではない。

例えば松山英樹の勇姿に心を打たれ「彼と同じクラブを使ってオレも勝利を掴むぞ!」という情緒的な必要性が生まれた場合も、私たちの「欲しい!」センサーはピコピコ光る。

前者は、その機能がいかにあなたのゴルフ人生に「利益(得)」を与えるかを訴えるが、後者はひたむきに努力する姿勢や諦めないことの「美しさ」を伝えるものだ。

人間は知性によって動くので当然「損得」で選ぶと思いがちだ。が、彼(松山英樹)が日本人として、史上初めてマスターズ優勝を飾った直後、決して人気ではなかった彼の使用モデルは数日で店頭から消えた。

丁寧にカタログに綴られた機能よりも、一人のプレイヤーの勇姿の方が、私たちの「欲しい!」スイッチを押させたという、否定できない事実だ。

演算アルゴリズム or 反応アルゴリズム

 機能的価値から「欲しいスイッチ」を入れるには、演算というアルゴリズムを経ることになる。そして機能は数値化される。そのため、前作や他社商品と比較して何パーセント優れているのか、何グラム軽量化されたのか、何円安いのか、といった具合に数字で示す必要がある。

それらを私たちの脳内コンピュータは演算により「損か得か」を判断し、「得」というフラグ(旗)がトリガーとなって「欲しいスイッチ」が押される。知性のアルゴリズムと言い換えることもできる。

他方、情緒的価値によって「欲しいスイッチ」を入れる場合には、私たちのなかの「センサー」を反応させる必要がある。センサーは検出器だ。ゆえに、ある基準を超える変化を与えればフラグが立ち、「欲しいスイッチ」がONになる。

人が通ると電気がついたり、25度(暑い)を超えるとエアコンが付いたりするのと仕組みは同じ。こちらは心(直感や感情)のアルゴリズムだ。

頭と心、どちらのアルゴリズムがUXフレンドリーか?

 消費者(ユーザー)の立場に戻ろう。さて、どちらが気持ちよく、高いUXで買い物ができるだろうか?

もし機能的価値で何かを購入したら、より優れたものや、代替品が出てきた瞬間に、買ったこと後悔するかもしれない。だから私たちは自分の決定に失望や後悔をしないためにも、入念に競合商品を調査し、何度も演算を繰り返し、間違いのない答えを出さなくてはいけない。もしかしたら購入後でさえも、その決定が間違っていなかったかを検証するために、再び調査をするはめになるかもしれない。

しかし情緒的価値は、それよりも「好き」と思うものが出てこない限り、センサーが反応することはない。次にセンサーが反応するまで、あるいは買った商品にセンサーが反応しなくなるまで、使い続ければ良いのだ。

あなたがマーケターなら、どちらのアルゴリズムでUXフレンドリーを実現するだろうか?

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