世界一を作りたければ、世界一を知り、訪ね、そのUXを味わえば良い
2021.02.24

世界一を作りたければ、世界一を知り、訪ね、そのUXを味わえば良い

 ゴルフ活動家を名乗る私は、ゴルフ場やゴルフに関するウェブサービスのアドバイザーをしている。クライアントの多くは「良いものを作りたい」「良いサービスを作りたい」と口にする。けれども、「“良い”って例えばどんなものですか?」と質問すると、驚くことに「何が良いのか?」を相談したいのだと。

“良い”とはすなわちUXだ。見た目が良く、使い心地が良く、余韻が長い。人はそうした“良いもの”を判別することができる一方で、「どうしたらもっと“良く”なるのか?」を考えるのはどうも苦手だ。

なぜなら、“良い”とは感覚や感性であり、感覚や感性を形式化(言葉や形で表現)するには、センスを求められるからだ。

センスは誰に、どこに、宿るのか?

 “良い”ものを見極める力、とりわけ美醜や、物事の微妙な違いを感じ取る力、その感覚や感性を私達は「センス」と呼ぶ。

センスの良い人が身につけているものは、なぜか良いものに見えるし、センスのいい人が作ったモノやサービス、文章は絶妙な心地よさを感じる。それにセンスのいい人はスポーツや音楽、芸術でも、細かな違いをすぐに感じ取って表現できてしまう。

私はセンスのある人に出会うたびに「羨ましいなあ」と思うし、自分もそんなセンスを身につけたいと思っているので、以前ある著名なプロダクトデザイナーとお話する機会があった際、思い切って質問をした。

「センスって何ですかね?」

と。すると、こんな答えが返ってきた。

知識や体験の集積が作り出す閃きセンサー

 『センスが良いというのは、良い“閃きセンサー”を持っているということだね。だからセンスを磨きたいんだったら、“閃きセンサー”を鍛えればいいよ。』

ハッとした。なるほど、要するにセンスが良い人というのは、まずセンサー、つまり物事や状態を検知・計測する能力が優れているということだと。何かを見聞きしたとき、瞬時に「大きすぎる」「速すぎる」「つまらない」「美しい」などと感じる能力が高いということだ。

一方で、芸術家ではない一般人も「このスニーカーはカッコいい」と瞬時に感じることができる。スニーカーの素人である私たちにも、「カッコいい」と感じる能力は備わっているということだ。

カッコいいと感じられる人(ユーザー)と、カッコいいものを作れる人(クリエイター)のセンサーの違い。この差がまさに『知識や体験の集積を伴った閃きセンサー』があるかどうかだということ。これに私はハッとしたのだ。

センサーには二種類あった

 私には、料理を食べて「美味しい」と感じるセンサーはある。しかし「どうやったらもっと美味しくなるか?」という「閃き」は降りてこない。その理由は、私に料理に関する知識や技術がないからだ。

つまり、センスのもととなるセンサーには、ただ“測るだけのセンサー”と、その情報から瞬間的にアイディアや考えが思い浮かぶ“閃きセンサー”とがあり、服を見て直感的に似合う服を選び抜くセンスも、ゴルフスイングを見てどこを直せば上達するか分かるセンスも、“閃きセンサー”の成せる技だったのだ。

あなたは閃きUXセンサーを鍛えているか?

 もし、自分が提供するサービスを「良くしたい!」と望んでいるのであれば、あなたは“閃きUXセンサー”を獲得する必要がある。

“閃きセンサー”を獲得する方法はいたって簡単だ。知識と技術を伴った体験をすればいい。

例えばワインを飲むときでも、ブドウの品種や産地、発酵や醸造の方法、温度や料理との相性、グラスの種類、そうしたものを知識として学んでから飲んでみる。そうすることで、ワインの良し悪しや違いが分かるようになる。加えてレストランで提供されたワインの温度やグラスの形が合っていないことに気づき、どうやったらもっと美味しく飲めるかが分かるようになる。

それが出来れば立派なレストランUXコンサルタントだ。

キャリアを支えるセンサーの獲得

 私は以前、マスターズトーナメントが開催されるオーガスタナショナルや、世界最古のゴルフ場と言われるSt.Andrewsにこの足で行った。

借景の美しさ、匂い、風、日差し、人、すべてに心の底から素晴らしいと感動したと同時に、それは太陽の傾きや風の向きまで完璧に計算されたコースによって成されていることを感じた。

そうしてゴルフの専門家である私が、なぜそこが「世界一のゴルフ場」と言われているのかを身を持って体験した。良いゴルフ場と、そうじゃないゴルフ場を瞬時に見極める“閃きゴルフセンサー”を獲得したのだ。この経験が、今のキャリアに影響を与えていることは言うまでもない。

あなたのビジネスに置き換えてほしい

 車メーカーに務めるあなたは、世界一の車に乗ることに意味があるし、レストランで務めるあなたは、世界一のレストランに行くことに意味がある。

あなた自身が実際に良いサービスを受けたり、良いと思う場所に身をおく体験と、そこでの閃きに意味があることに気づくはずだ。

知識や技術を持ったあなたが、“ワオな体験”をしたときにはじめて、あなたの閃きセンサーは輝きだす。

いいUXを実現したいなら、とことん最高のUXを味わって、あなたのUX閃きセンサーを鍛えるしかない。

関連記事