魂をNFT化して売買する未来
2022.03.16

魂をNFT化して売買する未来

 ペットや家族の遺骨を、ダイヤモンドに加工するサービスがあります。サービスを提供しているのはまだ海外(主にスイス)の企業ですが、日本国内でも日本語で受け付けが可能です。先日もSNSで「母親の遺骨でダイヤモンドを製作した」という投稿が流れてきました。

新しい供養の形式(ダイヤモンド葬)としても注目されつつあり、墓がいらないことから、少子化や子どものいない(つくらない)世帯でのニーズもありそうです。ぼく自身、自分の墓も戒名も、なんだったら葬式もいらないと思ってますので、耳にしたときは興味が湧きました。

ただ、同じく墓を持たない供養である散骨と比べると、慎重に考えるべき点もあります。つまるところ、故人とはいえ、人が人(がカタチを変えたもの)を所有していいのか、という問題です。

死後の自分の所有権は?

 家族に、ダイヤモンド葬についてどう思うか訊いたところ、こんなことを言われました。

「死んだら、人はみんなのものになると思う。死んでなお、その人を誰か(一人)が所有するのは、なんだかとても利己的な気がする」

せめてあの世では、一緒になろう。そういった物語めいた関係が、今の世でもなくはないでしょう。そういった関係においては、死が解放であり、救いであるという考え方も、肯定否定は脇に理解できます。

しかし、死してなお、その所有(権)がつきまとうとなると、解放も救いもなくなってしまいます。

なにより、死んだあとの「自分の所有権」はどこにあるのでしょうか?

故人を分割所有することだってできる

 ダイヤモンドになるということは、極論「売買できる」ということでもあります。赤の他人の遺骨を元に製作されたダイヤモンドを、所有したいという物好きはそういないでしょうが、それが偉人や有名人となれば話は別です。

原材料が遺骨であるなら、理論上埋葬されたほとんどの故人のダイヤモンドが製作可能です(利益目的の墓荒らしが出る可能性もゼロではありません)。

また、遺骨からダイヤモンドを複数、分割製作することもできるはずです(※サービス概要には、形見分けとして複数製作ができる旨が記されてありました)。そうなればいよいよ、コレクションや投資対象になりえます。著名人の場合、自身の死後、遺骨をダイヤモンド化し販売することが、新たな相続のスタンダードになる可能性まで考えられます。

究極的には魂のNFT化まで

 ここまで来ると、なにもダイヤモンドでなくても構いません。どういった技術かはわかりませんが、遺骨から唯一無二のデジタルデータを製作し、NFT化して所有することもできるはずです。

むしろ物質ではないNFTの方が、所有者が明確になり、譲渡プロセスも追えるので「魂の保存」という意味では安心です。

さて、ここで話は戻ります。

人間が人間を所有することは、倫理的にありでしょうか。なしでしょうか。

昨今、ビジネスにおけるエシカル(倫理性)がキーワードになっていますが、新しいサービス(とりわけ既存の形式を壊す画期的なサービス)には、なにかしら容易ならざる問題が隠れています。

最後に

 供養の一つとしてのダイヤモンド葬は魅力的です。墓不要、遺骨の管理も不要、それでいて詩的で美しささえ感じられます。

つまり供養のUXという面においては、画期的なサービス(提案)であり、ユーザーの負を解消し、テクノロジーによる新たなライフスタイル、エクスペリエンスを提供してくれるものだとも言えます。

しかし、これまで述べてきた通り、倫理的な問題は未解決のままです。イノベーティブなプロダクトやサービスの開発に取り組んでいるときほど、その背後にある倫理的問題にも、きちんと目を向けなければいけません。

UXは人生のエクスペリエンスを向上させるものですが、問題を解決する以上に、新しいより複雑な問題を生んでしまわないか、くれぐれも考える必要があります。

あなたはダイヤモンド葬を支持しますか?

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