オーディオブックのUXにはどんな進化の可能性があるか?
2021.11.24

オーディオブックのUXにはどんな進化の可能性があるか?

 オーディオブックのユーザーが増えてきています。ゆっくりとでも着実に、周囲でオーディオブックを聴く人が出てきました。とりわけ、ふだん書籍は読まないけれど、そのことにやや後ろめたさを感じている人たちのなかで。

ぼくは Amazon Audible の熱心なユーザーでしたが、実は最近めっきり利用しなくなりました。といっても、耳学習習慣はつづいています。では他のサービスに乗り換えたのかというと、そうでもありません。書籍を音声化したものではなく、もともと音声用に録られた学習教材や、セミナー教材の音声だけを抜き出したものを(自作して)聴いています。

非科学的に聞こえるかもしれませんが、学習は「本人から」学ぶのがベストだという確信があります。内容が同じなら、誰から教わっても同じだというのは正論ですが、しかしでは学習効率や定着率、副次的に得るインスピレーションやアイデアも同じかというと、必ずしも「同じ」だとは断言できないはずです。

強引に説明することばを探すとすれば、「臨場感(リアリティ)」かもしれません。まったく同じセリフ、同じストーリー、同じ舞台であったとしても、それを一流の俳優が演じるのと、小学生の子どもが演じるのとでは、そこから受ける臨場感(リアリティ)には天と地の差があります。極端に言えば、そういう話です。

作家も書かなくなってきている

 結論を先に言えば、(ビジネス書系の)オーディオブックは「作家本人の肉声」が理想であり、そうなっていくのではないかと期待しています。

言うまでもなく、声優や俳優など、声を仕事にしている方の技術は素晴らしいものです。聴き取りやすく、明瞭で、心地良いです。それでも、ぼくは「本人から」学ぶことを推奨する派であることには変わりありません。

それに最近は、音声入力の精度も上がり、そもそも「話す」ことで本や文章を「書く」人も出始めています。大半をそうやって「話す」ことで書かれた本も出版されています。

加えて、そもそも「話す」内容をライターが文字起こしをして、編集し、本にすることは以前から当たり前の手法です。ぼくは「話す」よりも指を動かして「書く」方が速いのでそうしていますが、現実には「書けないけど話せる」人の方が多数を占めるのではないでしょうか。

音声入力とインタビュー内容と音読推敲

 テクノロジーが進歩する前提で、音声入力派の作家は、そのプロセスを利用することで、そのままオーディオブックも同時作成する手間が省けます。インタビューからライターが内容を書き起こす派の作家の場合は、それこそインタビュー音声が使えるでしょう。

ぼくのような話すより書く方が得意なタイプでも、推敲時には「声に出して読む」ことが多々あります。どうせ行うことですから、このパートだって利用可能です。

ぼくを含め、素人の「声」や話し方は、聞き慣れているプロのものと比べると、とても不格好で、クオリティも相当低いかもしれません。しかしそういった表面的な問題は、今後のテクノロジーの進化によって、かなりの部分はカバーされるのではないかと予想できます。

機能的な理由や、なんらかの事情により「肉声」によるアウトプットが叶わない(望まない)作家も当然ながらいるでしょう。その場合は無理せず、これまでどおりプロに依頼すればいいのです。

書籍よりもオーディオブックが伸びるは当然

 ぼくは書籍派ですが、それでもオーディオブックで学んでいる時間の方がどうしても長くなりがちです。理由は当然で、占有される感覚領域が異なるからです。

オーディオブックの場合、耳(聴覚)だけ自由であれば構いません。運動中であろうが(体感覚)、掃除中であろうが(視覚)、食事中であろうが(味覚)、問題なく行うことができます。

他方、読書の場合、少なくとも目(視覚)、耳(聴覚)、姿勢(体感覚)の三種の感覚を占有できる場合でしか満足に行うことができません。

耳(聴覚)は問題にしないという人もいるかもしれませんし、なんだったら音楽を聴きながら読書をするという人もいるでしょう。ぼくも読書中は音楽を流していますが、それはむしろ聴覚を「閉じる」ためであり、ラジオを聴いたり、人と会話しながらの読書は「できている」とは言い難いと思っています。

片や「耳」の自由だけ、片や「目・耳・姿勢」の三つの自由が同時に伴う場合だけ、という条件を比べれば、書籍よりもオーディオブックに軍配が上がるのは当然だと言えます。

オーディオブックの未来UX

 先にも述べたとおり、作家が書籍作成のプロセスのなかで出てくる「肉声」を拾い上げ(さらにテクノロジーの力で上手に加工し)、オーディオブック化することができれば、追加コストをはるかに減らした上で、新たな価値を生み出せる可能性があります。

それらは現在のようにオーディオブックとして別売りにするのではなく、書籍とそもそもセットにすることで、ユーザーの間口も広がるでしょう。

また、電子書籍とシームレス化することで、電子書籍のつづきからオーディオブックを聴き、オーディオブックのつづきから電子書籍で読めるとなると、さらに未来UXです。

「いい師につく」ことが、自己成長にとって重大なインパクトを持つことには、今も昔も変わりはありません。その師匠が語る内容とまったく同じだったとしても、それを師匠の肉声から受け取るのと、初音ミクの声で知るのとでは、やっぱり、違うのではないでしょうかね。

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