電子書籍でしか体験できないUXをどうデザインするか?
2021.11.03

電子書籍でしか体験できないUXをどうデザインするか?

 読書は紙派ですか? それとも電子書籍派ですか?

ぼくは Kindle Oasis を手に入れてから、格段に電子書籍で読む量が増えました。けれど、熟読する本は紙で手に入れます。電子書籍で読んだものでも、熟読したいと思ったら必ず紙で再購入します。

そういう意味では、これまで電子書籍(デジタル)の利点は保存性にあると思っていましたが、現実には「一過性」こそデジタルの本質なのかもしれません(電卓の見逃されがちな価値は、計算結果が「残らない」ことにもあるはずで)。

電子書籍レーベルのこれから

 今後、電子書籍は確実に普及していきます。未来を見越して電子書籍専用レーベルを立ち上げる出版社も出てきています。

そんななか、必ず議題に上がるのは「電子書籍ならではの価値」です。読者が紙の本ではなく、あえて電子書籍で選ぶ「利点(UX)」を、どうデザインできるのか。

現時点ではまだまだ「紙をそのまま電子化した」ものが大半ですが、今後は出版社ごとの差別化ポイントにもなってくるでしょう。

ディスカヴァー・トゥエンティワンが今年立ち上げた電子書籍専門の新レーベル「Discover Next D」も、電子書籍ならではの価値を模索している様子です。

N=1のUXが最初のハードル

 Discover Next D が実際どんなことをしているのかというと、SNS でのシェア機能ががついていたり、解説動画が観れるリンクがあったり。ぼくの読んだ本の巻末にも、本の内容に関してツイートできるリンクが載っていました。

でもそれ……やりますか(嬉しいですか)??

ぼくはディープなツイッタラーですが、今までに一度もそういったツイートは見たことがありませんし、自分自身そういった機能は100パーセント使いません。まずメリット(理由)がないですから。

人を動かすためには、予想されるネガティブ(この場合はツイートする)の2倍のポジティブ(メリット)がなければいけないことは、認知科学や行動経済学などの、あらゆる研究で明らかになってきています。そういった意味でも、2倍のメリットをユーザーに与えているとは感じません。

解説動画を観れるのはいいですが、それは紙でも QR コードを載せればいいだけで、「電子書籍ならではの価値」とは言い難いです。

電子書籍の特徴はどこにあるのか

 だったらなにをすればいいのか。「電子書籍ならではの価値」を模索するなら、そもそもの「電子書籍の特徴」を深堀りする必要があります。

ぼくは自分の短編小説を Kindle で出版したことがあります。その経験も踏まえて、「電子書籍の特徴」はなにかを考えるに、それは保存性でも、即時性でも検索性でもなく、「更新性」だと見ています。

電子書籍は、出版した後からでも、内容を更新できます。アップデートした際には購入者(ダウンロード者)に通知され(Amazonの場合)、もちろん追加費用などなく、常に最新のバージョンに変更できます。

段組みの変更や画像の複数追加といった、大きな変更にはそれなりに手間がかかりますが、文章を変更・追加する程度であれば、修正したファイルをアップロードするだけです。この「更新性の高さ」こそ、紙にはない最大の強みの一つと捉えるべきです。

電子書籍のUX向上の具体案

 仮にぼくが紙の本と電子書籍を同時に出版するなら、電子書籍版にだけ巻末に Q&A コーナを設けます。そして SNS(Twitter)で本の内容についてツイートできるリンクを貼り、質問を募集します。

そして毎月決まった日に、質問と答えを電子書籍の巻末に追記していきます。質問すべてというわけにはいかないので、似たものはまとめたり、上限を決めておく必要はあるかもしれません。

これを、出版から一年間限定、つまり 12回だけ行うことにしておけば、著者や出版社の負担に上限を設定できますし、ユーザー側も電子書籍を早く買った人は質問に答えてもらえる可能性が高まり、後から買った人は最初から情報が増えたものを手に入れられるというメリットが生まれます。

質問に答えてもらえることがわかれば、SNS での質問も増えるかもしれませんし、それを見た別のユーザーに対する本の認知アップにもつながります。

なにより、限定的とはいえ、デジタルならではの双方向性をデザインできることも、UX 向上に寄与するはずです。

UX向上は媒体の特徴を探ることから

 ぼくが知らないだけで、先に提案したことはすでに実施されていたり、準備されていたり、思わぬハードルもあるのかもしれません。

でもぼくはまだそんな本には出会ってないので、今回提案した案が実装されれば、「電子書籍ならではの価値」は確実に向上すると思います。

これまでは単行本が文庫化されたときに、せいぜい「あとがき」や新章がわずかに追加されるだけでした。それが電子書籍なら毎月、しかも自分の質問の答えが追加される(可能性がある)となったら、これは革新的です。

ぜひ、Discover Next D だけでなく、いろんな出版社からそういった取り組み(望むなら、それ以上の驚くような取り組み)が、どんどん実行され、電子書籍から出版業界がまた盛り上がってほしいです。永遠に本を愛する、一読者として。

では、また書きます。

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