最強のマッチングサービスを開発するのはNetflixなんじゃないか問題
2022.02.23

最強のマッチングサービスを開発するのはNetflixなんじゃないか問題

 使ってますか、マッチングサービス(アプリ)。ぼくはチキンハートですし、見知らぬ誰かと出会いたいニーズが皆無なので利用したことはないですが、周りでは「え、あなたも!?」というくらい、登録している人が増えています。

おめでたいことに、来月も、小学生からの付き合いの幼なじみが、マッチングサービス経由で知り合った相手と結婚することになりました。オンライン化が激しく進み、便利になった一方、ある程度の年齢になると、たしかに「どうやって出会うんだ」という問題は深刻です。

友人から結婚の連絡を受けて、マッチングサービスについて UX の観点から考えてみました。その結果、実は Netflix がマッチングサービスを開発したら、すごいことになるんじゃないかと思い至ったので、今回はその理由とサービス内容について書いてみたいと思います。

あなたの事業やサービスにも、なにかヒントがあるかもしれません。

そもそもNetflixはマッチングしている

 Netflix のレコメンド機能のアルゴリズムをご存知でしょうか。映画やドキュメンタリーを観たり、マイリストに登録すると、自動で他のおすすめ動画をレコメンドしてくれます。

この機能、どうなっているのかといえば、厳密には「あなた」の嗜好や傾向を分析しているわけではありません。膨大な会員のなかから「あなたに似た人」を見つけて、その人が(過去に)気に入ったものを並べています(考えた人、天才ですよね)。

つまり、Netflix はそもそも高度な「マッチング機能」をすでに持っている(開発済み)ということです。極端な話、あとは位置情報さえあれば「映画(動画)」を基軸とした「マッチングサービス」を提供できます。

ただ、ここで話が終わってはつまらないので、さらに掘り下げてみましょう。

映画好きというニッチ・マーケットを狙う

 郵送のレンタルDVDサービスからスタートした Netflix は、今や動画配信プラットフォーム界の王者ですが、マッチングサービスに参入するとなると、ずいぶんな後発です。

マーケティングのセオリーに従うなら、ニッチ・マーケットを狙うのが良さそうです。その場合、パイは小さくなるかもしれませんが「映画好き」に絞るのは「あり」でしょう。なぜなら、映画(Netflix)好きで、マッチングサービスに登録しようと思っている人がいたなら、Netflix 以上に圧倒的な選択肢は存在しないからです。

「映画ラバー同士のマッチング」は、とてもニッチですが、はじめから趣味が共通しているので、コンセプトは明確。少なくとも「話が合わない」や「趣味が合わない」リスクは解消されます。

逆に、「スペック婚」を期待する人(女性)にとっては目的と合致しない可能性が高いですが、今回のターゲットとは異なるので、ばっさり切り捨ててしまっていいでしょう。

ユーザーが知りたい情報をノイズなく集める

 どんな事業やサービスでも、UX を高めるにはユーザーの「情報」が不可欠です。ではその「情報」はどうやって集めて提供するのかというと、以下の4つのパターンが存在します。

 (1)手動で集めて、手動で提供する
 (2)手動で集めて、自動で提供する
 (3)自動で集めて、手動で提供する
 (4)自動で集めて、自動で提供する

マッチングサービスの領域で考えれば、ユーザーの「情報」を(1)手動で集めて、手動で提供するのは、昔ながらの「結婚相談所」です。サービス登録者は自分で自分のパーソナルデータを埋め、合いそうな人を担当者がこれまた人力(手動)で選び出す。

現代ではおそらく進化していて、(2)の手動でパーソナルデータを提供してもらったあとは、AI で自動マッチングしているのだと思います。(3)については、該当する例はあまりなさそうです。

では Netflix はというと、マッチング希望者が Netflix を利用して映画を観れば観るほど、自動でパーソナルデータが蓄積されていき、「あなたに似た人」を探すというマッチング精度の向上が期待できます。

もちろん、Netflix の利用だけではわからない最低限の情報は手動で提供してもらう必要があります。けれど、例えば「本当は違うのに見栄を張って」という記述による嘘(ノイズ)は格段に減少するはずです。

実際に「時間」という貴重なリソースを投下して映画なりドキュメンタリーなりを観ているわけですので、それは他のマッチングサービスがもっていない重要な個人のローデータ(生データ)になります。

お互いのUXが上がるWin-Winの提案

 さらに、Netflix をただ利用するだけでなく、マッチングを希望する人には「よりマッチング精度を向上させるため」として、視聴後に星による5段階評価を必須にしてもらう手もあります

同じ映画を観た同士だとしても、「最高!」と思った人と「これはないわ」と思った人とでは、相性ばっちりなわけがありません。なので、共通の映画だけでなく、その「評価」によるマッチングを実現する必要があります。

こうすることで、マッチング精度が高まるだけでなく、Netflix 本体にとってもレビュー(評価)がどんどん溜まるという、とてもとても大きなメリットが生まれます。

写真を載せる抵抗感をナッジする

 それでも「マッチングサービスはちょっと……」という人の、最後の砦はやはり「自分の写真をアップすること」ではないでしょうか。ぼくも基本的に顔出しは苦手で、Facebook や Twitter でもプロフィールに自分の顔写真は使っていません。

マッチングサービスに興味はあるけど、登録するに至っていない……という数人に話を訊くと、やはり「顔写真のアップ」に少なからず抵抗感を抱いているようでしたし、ぼくもその気持ちは理解できます。

では、Netflix ならではの、顔写真をアップする UX 改善の手立てはないでしょうか。例えば、好きな映画のポスターに「顔はめパネル」的に写真を合成するサービスなんて、どうでしょう。

ふつうのマッチングサービスでそんな写真がアップされていたら、ふざけていると思われるか、ただただ引かれるだけでしょうが、Netflix のマッチングサービスなら「あり」です。「あり」どころか、それもまた一つの重要な相手の「データ(好きな映画やポスター)」になり、楽しめます。

あるいは、映画の「名シーン」への顔写真の合成でもいいかもしれません。いい写真が取れたら、きっと SNS にアップしたくなるでしょうから、そこからさらにサービスの告知になったり、無料のマーケティング効果も期待できます。むしろこの写真合成サービスを利用したいがための登録者も増えるかもしれません。

そして、出会い

 一緒に映画を観る友人を増やしたいのと、生涯を共にするパートナーを求めているのとでは、深刻さも熱意も違います。後者であれば、年収やら職業やらも、重要な指標にどうしてもなってしまうでしょう。

それでも、気が合わない人と一緒にいつづけるほど、よくわからないことはありません。まして、「お金」と結婚するわけではないのですから。

Netflix マッチングサービスは、気の合う人と出会うという点では面白いと思います。マッチングされたなら、お互いに「共通して観た映画(と各映画への評価)リスト」が送られて、当日はそれをもとに会話を始める、なんてのは、いろいろなストレスが緩和されて良さそうです(盛り上がりもしそうですしね)。

きっと企業として、Netflix のアイデンティティにマッチングサービスはないでしょうから、実現はしないと思います。なので、これらはただの頭の体操でしかないのですが、自分たちの事業やサービスを客観視して、どこにアドバンテージがあるのかを評価し、それを活かせる場所(UX)を見つけられたなら、もしかすると業界地図を塗り替えることだって、できるかもしれません。

でもそれらはあくまでも、本業で圧倒的な価値の創造ができていることが前提です。そしてそのキーワードは、やっぱり UX にあるはずです。

追記

 似たようなサービスがないか探してみたところ、既存のいくつかのマッチングサービス内に、「Netflix」というコミュニティが用意されており、そこでどの映画を観たか、好きか、などの評価ができるものはありました。

実際、そのなかでマッチングに成功している例もありそうでしたので、なおさら、本家(Netflix)がやったら、えらいことになるんじゃないかと妄想が膨らみました。

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