店舗ビジネスで客に見放される、UXの3つの誤り
2021.08.18

店舗ビジネスで客に見放される、UXの3つの誤り

 近所に昇屋(しょうや)という焼肉屋があります。一階は二人ずつ半個室になったカウンター、二階は座敷でこちらは個室。ぼくは普段ほとんどお肉を食べないのですが、夕食を共にする相手の希望がお肉だった場合には、時々利用していました。みんな「おいしい」と満足してくれます。

ところが、少し前にとても残念なことが起きました(お互いに、バッドラックだったと思うのですけれど……)。結果として、ぼくはそれ以来、お店には行っていません。そして多分もう行きません。

なぜこんなことになったのか。どうすればよかったのか。今回の出来事から「UX」の面で教訓にすべきことはなんなのかを、考えてみたいと思います。

タッチの差と言われても

 雨の日でした。おいしい焼肉屋があるから行こう、と言って、車でお店の前に停めました。専用駐車場があるのですが、混んでいそうな雰囲気だったので、助手席のぼくだけ一旦降りて、お店に行きました。

ぼく「二人なんですが、今から入れますか?」
店員「大丈夫ですよ」
ぼく「じゃあ、車を停めたらすぐ戻りますので」
店員「わかりました」

というやりとりがあり、雨のなか急いでぼくは車に戻り、先の内容を同伴者に伝えました。一緒に専用駐車場に停めて、ざざ降りのなか、傘を差して急ぎ足で店に行きました。扉を開けると、先ほどの店員さんが出迎えてくれました。3分と経っていなかったと思います。

ぼく「先ほどの者です。二人お願いします」
店員「今さっき電話で予約が入ったので、満席になりました」
ぼく「いや……」
店員「すみませんが、またのご来店をお待ちしてます」
ぼく「え……」

気分を害したのは言うまでもなく

 席の確認をしに行ったとき、たしかに背景で電話の音が鳴っていました。そして別の店員さんが対応し、悪気なく(ほぼ同時に)予約を受けてしまったのだと思います。

来店の確実性で言えば、電話で明確に予約をした人の方が高いと判断したのかもしれません。ぼくは名前も電話番号も伝えていませんから。ただ「(車を停めたら)すぐ来ます」と言ったに過ぎません。

あるいは、予約を受けた相手に再連絡する術がなく(電話番号を聞いていないなど)、仕方なく目の前の相手(ぼく)に事情を説明して断ったのかもしれません。

真実はわかりませんが、ただ一つ確かなことは、ぼく(ら)の体験した UX は最悪だった、ということです。

なにがいけなかったのか

 この事件に最適解はあったのか。ぼくにはわからないので、この道の専門家に相談しました。接客や接遇のプロフェッショナルで、ミステリーショッパーもしている方に、どう思うか訊ねたところ、3つの誤りがあると教えてくれました。

■誤り1)なぜその理由を言ったのか?

 正直は美徳ですが、必ずしも「正しい」わけではありません。今回の場合、不快さの何よりの原因は、その「理由」にあります。

ぼくが席を確認し、車を停めて戻るまでの間に予約が入った、それで満席になったのでご案内できません。またお越しください……で納得できる人が、どれだけいるのでしょうか。少なくともぼくは「嫌」だと感じました。

もし同じ断るにしても、なにか別の納得できる理由、誤解を恐れずに言えば素人にはわからない、なにか専門的な理由でもって、ご案内することができなくなってしまった、というのであれば、感じ方はきっと違ったはずです。

■誤り2)代替提案がない

 店に足を運んでくれた相手を(店の都合で)断る……というのは、言ってしまえば「最終手段」です。満足してもらえるかは別として、その場の機転で代替提案をできるかどうかが、UX を左右します。

物理的に満席であるならどうしようもないですが、「もしお待ちいただけるなら」と、待合席に案内し、その間の飲み物を供するくらいは、可能だったのではないかと思います。

■誤り3)お詫びがない

 先の無料ドリンクの提案にしても、なんでもかんでも渡せばいい、無料にすればいい、というわけではありませんが、今回の非は明らかに店側にありました(相手はそうは思っていないのかもしれませんけれど)。

そのときに、お詫びの手段が用意されていなかったのはもったいないです。もしまた来てほしいと思うなら、次回の来店時に使える割引券や、なにかしらのギフトがあったなら、印象もまるで違ったはずです。

誰も言ってくれない

 これまでの話(改善提案)を、ぼくはお店にしたか。ノーです。ではこのバッドな出来事を、友人や周りの人に言ったか。イエスです。会う人会う人に言いふらした、というわけではありません。「あのお店に行こう」と言われた場合に、この話をして別の店にしようと言いました。

UX の改善は、直接言ってもらえないからこそ、簡単ではないのかもしれません。ではどうすればよりいい UX へと改善していけるのか。

日々「どうすれば UX を高められるか?」というアンテナを立て、インプット量を増やすことです。「UX を高めたい」というゴールがあってはじめて、いろいろなものが見えてきます。

もちろん、UXジャーナルは欠かさず読んで、ね。

納得してもらえる理由はなにか。代替提案はなにか。お詫びはなにか。

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