記憶のクラウド化がもたらすUXの果て…?
2021.04.07

記憶のクラウド化がもたらすUXの果て…?

 あなたの第二の脳。クラウドメモアプリの代表、Evernote のコンセプトコピーです。

あなたの第二の脳

創業者のステパン・パチコフは、人間の脳には 3つの機能があることに気づきました。過去を記憶すること、さまざま出来事や情報につながりを見出すこと、未来へ向けて新しいアイデアを生み出すこと、です。彼のこの気づきこそが Evernote の出発点でした。

(EVERNOTE について より)

ぼくのお気に入りメモアプリは Bear ですが、最近周囲では Notion を使い始めたという声をよく耳にします。iPhone ユーザーなら、純正のメモアプリを使用している人も多いですね。

紙のノートとは違い、メモアプリの場合はほぼ無限に近い記憶の断片(メモ)を、一ヶ所に残すことができます。それをいつでも検索し、必要な情報を引き出すことができます。

では、この進化は、最終的にどんな UX をわれわれユーザーに返してくれるようになるのでしょうか……?

文字どおりの“第二の脳”に

 脳にチップを入れる。そんな未来は、おそらくぼくらが生きている時代に起こり得るでしょう。なんのためにそんなことをするのか。もちろん、外部の“脳”に自由にアクセスするためです。

人間の記憶そのものをクラウド化する。データベースに保存し、好きなときに検索できるようにする。保存されるデータの中身は、初恋や仕事での成功、魚をさばくときのコツといった個人的な経験や知恵から、ネットで拾ってきた可愛いネコの画像まで全部。

一部の人にとっては非常に抵抗感のある未来図でしょうが、一方で多くの人が「自分の記憶力を高めたい」を感じているのも事実です。本屋に行けば、記憶術や記憶法に関する書籍をいくつも見つけることができます。記憶力の増強は、古来から人類が抱いている強いニーズなのです。

しかし、記憶をクラウド(データ)化すると、もう一つ、できるようになる重大なことがあります。それが、忘れることです。

記憶を消すサービスは間違いなく流行る

 人生最高のエンタメに出会ったとき、こう思った経験はありませんか?

「記憶を消して、もう一回観たい!(読みたい!)」

特にミステリー小説や映画といった、ネタバレ厳禁なコンテンツほど、ぼくらは人生でたった一度しか、新鮮に経験することはできません。好きな作品であれば、再読、再視聴しますが、感動は薄れていきます。

でももし、その記憶を消すことができたら?

何度でも「あの感動をもう一度!」が叶うことになります。記憶をクラウド(データ)化すれば、こんなことも可能になるかもしれません。

人に関する記憶の削除は問題がある

 恋人と別れた。最愛の人と死別した。そういった耐え難い不幸の記憶を消したいと望む人は少なくないでしょう。しかし、人に関する記憶を消すことは、関連記憶が多すぎる点と、倫理を含む複雑な問題により、正直難しいのではないかと思います。

しかし、先のエンタメコンテンツに関しては、記憶と経験がかなり限定的なので、ややもすると実現可能性は高いかもしれません。

あなたはこのサービスが登場したら、いくら支払うでしょうか。そんなもの利用しないという人もあるでしょう。でもぼくは、考えてしまいます。あの小説を、あの映画を、あのゲームを、またはじめから、なにも知らずに体験できるなら……。

記憶は消せない。ではどうするか?

 現実には、コンテンツを消費した感動の記憶を消し、再度フレッシュな状態で体験することはまだできません。

では、事業者としてなにができるか。最初の感動を上回る感動を提供しつづけるには、どんな新しいアイデアがあるか。この追求こそが、UX視点でのイノベーションの糸口ではないかと思います。

ユーザーが「記憶を消してもう一度体験したい!」と願うような UX を、どうすれば提供しつづけられるのか。ぜひ考えてみてください。ぼくはそれを体験したいです。

「記憶を消してもう一度体験したい!」と思われるほどの体験を、上書きし続ける。

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