すべてのビジネスパーソンが、UXを学ぶべき理由
2022.01.05

すべてのビジネスパーソンが、UXを学ぶべき理由

■ 私たちの日々は、エクスペリエンスの連続

 2022年になり、UXジャーナルを運営する私たちの会社、株式会社文殊の知恵は3期目に入りました。第2期の2021年は、さまざまなトライ・アンド・エラーを行い、「自分たちが提供したい価値は何なのか?」を追い求めてきました。たくさんの実践を行うことで、ようやく自分たちの会社のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を言葉にできる段階に入ってきたように感じます。

MVV は初めから明確であるべきだという意見もありますが、私たちのようなパラレルワーカーの集う実験的なチームにおいては、暗中模索のプロセスの中から光明を見出していくのが、遠回りのようで王道なのかもしれない、と感じています。

■ 小さな「さざ波」の中からなにを拾うか

 さて、UXジャーナルでは今年も「ネットの中の世界にとどまらないUX」について語っていきたいと思っています。

飯尾裕光さんの赤丸ハッカドキュメンタリーや、エクスペリエンサーのように、ある人の生き方の中から「どんな生き方をしたいのか=どんなエクスペリエンスを積み重ねていきたいのか」のヒントを得ていくこと。私たちの日々の仕事の中でのちょっとした行動の変化により、気がつくと自分も周囲も UX が高まっていく「組織習慣の作り方」のヒントを提供していくこと。こういったコンテンツを発信していきます。

UXジャーナルもトライ・アンド・エラーの繰り返しです。そもそもなんのためにメディアをやっているのか? このメディアを続けることで、私たちはどんな経験を得たいのか? 自問自答の日々です。思うに、私たちの日々はエクスペリエンスの連続です。大きな波だけでなく、小さなさざ波の中にこそ、多くの人が見逃しがちな UX を向上させるヒントがあるはず。さざ波の中から微細な変化を見つけられる感性を磨いていきたいと思います。

■ なぜビジネスパーソンこそUXが必修なのか?

 この文章を書いている私のメインワークは、DX を中心とした企業戦略を社内で浸透し、社員の行動が変化されていく組織文化や能力開発を行うコンサルタント、研修講師です。私自身が40代に入ってきたこともあり、最近は同世代の管理職・次世代経営層の研修を行うことも多くなってきました。

具体例として、「チェンジマネジメント」というコンセプトで行っている、リーダー研修のプログラムをご紹介します。「UX」という言葉をどのようにビジネスパーソンに伝えているか、その一端が見えてくるはずです。

このプログラムに通底している狙いは、「世の中の動き・ビジネストレンドと、自社戦略を紐付けて理解できるようになる」です。

(1)DX・UX といったバズワードや、両利きの経営のような経営理論を、ニュースやビジネス書で見聞きする「経験」

(2)自分の会社の戦略・ビジョンを社内情報として見聞きする「経験」

この2つの経験がしっかりと線と線で結びつき、世の中の動きと自社・自分の動きの相関が具体的に理解できれば、「何をアクションすればよいか?」が見えてきます。しかし残念ながら、こういった「研修で学ぶ事柄」を吸収し、具体的なアクションに変えられる人は多くありません。そういった人たちには、「自分の言葉で伝える」というアウトプットの意識が不足しています。「聞いて終わり」になってしまうのです。

■ 自分ごととして捉えてもらう伝え方

 そうならないために、わかりやすく平易な言葉で、そして具体的な事例を交えながら伝えていくのが、プロとしての僕の仕事。その際に、伝える上でポイントになるのが「いかに自分ごととして捉えてもらうか?」です。

先進的な UX を提供するサービスを伝えるだけでは、「ああ、他の会社はすごいなー」という感嘆だけで終わってしまいますし、UX をオンラインサービスの中の話だけで伝えようとすると「それは IT 部署のやる仕事だな」という他人事で終わってしまいます。

自分ごとにしてもらうためのキーは、「あなたは、サービスの提供者である前に、サービスの消費者=ユーザーなのだ」というメッセージです。ゆえに私は、以下の「サクサク3ステップ」を鉄板トークとしてお伝えしています。

この内容については以前のUXジャーナルの記事『UXってなんですか?[最初に読む記事]』で詳しくお話していますので、ぜひ見ていただきたいのですが、一言でいうと、「いろんな UX を実体験しているサクサクユーザーじゃないと、UX を上げるサービスを提供できないよ」ということです。

この話をすると、「ああ、自分はサクサクユーザーとはとても言えないです」という反応があり、そういう方に「便利を知らないと、不便に気づけないのですよ。便利を知らない企業が提供するサービスは、大体の場合不便です。中の人が、不便に気づいてないので」とダメ押しします。そうすることで「あー、まさにウチの会社そうかもしれない」となってきます。

さらにここで、「では、自社の戦略では、どういう会社を目指そうと言っているでしょうか?」と、会社の戦略に戻ります。すると自社が IR で発表している統合報告書において、「顧客の CX を向上させる取り組みを行う」とか「社員の EX を向上させる施策を広げる」というような言葉が踊っているのを発見するわけです。

ここにおいてはじめて、「世の中の流れと自社の戦略の結びつき」を自分ごととして感じ取れるようになります。

■ CXとEXを分けて考えることはできない

 CX(顧客体験)とEX(従業員体験)は分けて考えるべきではありません。その昔、CS(顧客満足)とES(従業員満足)はどちらが先に満たされるべきか、という議論がありました。しかしそこに結論はなく、大事なのは「つながり・循環」として捉えることです。

自分という人間は、従業員としての顔と顧客としての顔の、両方を持っています。ヤマト運輸のドライバーに感謝を持ち、不在配達を発生させないよう、アプリを使って日時指定を習慣化させている人は、「よい顧客=サクサクユーザー」です。そういう人だからこそ、自社における「無駄・ムラ」に気づくことができ、効率化を図ろうとする「サクサクワーカー」になることができます。

サクサクワーカーの集団が提供するサービスは、ユーザーに不要な不便や苦痛を強いることをしません。なぜなら、自分が顧客だったら嫌だな、というユーザー意識が高いからです。このように、「ユーザー意識」をすべての社員が持つことが、「顧客視点で考える」組織になるためには不可欠なのです。

■ UXという切り口から考えると、世界の見え方が変わってくる

 「UX」という言葉をどのようにビジネスパーソンに伝えているかについて、研修の中で語る一コマを文章でお伝えしてみました。いかがでしたでしょうか?

UX という言葉は、捉え方が人によって様々です。なぜなら「どういう体験を快適と感じるか」が人によって様々だからです。例えば、行き帰りの電車通勤を「オンとオフの切替えの時間」として捉えている人にとっては、電車通勤は快適でしょうが、「車に比べて、パーソナルスペースが狭い移動手段」として捉える人にとっては不快になります。自分にとってのよい UX が他人にとっては悪い UX になる、ということも起こりえます。

私たちの世界は、人と人の相互作用によって成り立っています。私が便利を享受できるのは、便利を届けてくれる働き手の苦労によって成り立っているとも言えます。その意味で、エッセンシャルワーカーと呼ばれる方々の UX を上げていくことは、私たちユーザーがこれからも便利で快適を得られるために不可欠になります。この視点で物事を捉えていくと、UX を考えることはサステナブルを考えることになり、ESG 経営をする上で UX は切り離せない概念ということになります。

つまり、UX を構成する要素には、利便性と快適性だけでなく、倫理性があることを私たちは知っておかなければなりません……と、この続きは次回(2022年2月)取り上げることにしましょう。

UXを自分ごとで捉えると、自社の戦略が見えてくる

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