
アルコール=お酒、だった時代
飲食店だろうが、雑貨店だろうが、書店だろうが、どんなお店でも入店時に無料でアルコールがもらえる。
「アルコール=お酒」だった2年前には、信じられない文章です。でも、コロナ禍以降は「アルコール=消毒」の時代になりました。個別の店舗だけでなく、大型のショッピングセンターでは入館時、入店時とダブルトリプルでアルコール消毒ができるようになっています。オフィスビルも同じです。
もう相当な範囲で一気に展開されているので、私としてはことあるごとにおもしろく観察しています。プッシュ型には手押し型と足踏み型があったり、手動と自動の違いがあったり、中身も液体とジェルの違いがあったり、バリエーションもまあ豊かなこと。
検温のご協力のお願い
手指の消毒とともに、とりわけオフィスビルの入り口・受付では検温も導入されています。今は非接触が大事な時代ですから、オデコにピッ、手首にピッ、顔をカメラにむけてハイチーズと、あの手この手で体温を測ってくれます。
そんなある日のこと、シェアオフィス利用のために訪れたビルの、玄関に設置されていた検温装置がこちら。おでこを円の中に入れてと……あれ? なんかしんどくね?
ギックリ腰の人もいるんだよ
検温用のカメラの高さは、地上から大体130cmでセッティングされていました。私の身長、つまり地面から頭のてっぺんまでは176cmですから、おでこの高さだと165cmくらい(たぶん)。つまり私がこの検温をするためには、30cm強のスクワットが求められます。
実はこのとき、2週間ほど前にギックリ腰をやってしまった影響で、前傾姿勢がとれないコンディション……。むむむ、これはしんどいぞと思いながら、やや不自然に足を広げ、背中を地面に対して垂直に保ったままゆっくりスクワットして、カメラの高さまで顔の位置を下げることで、ようやく検温ができました。
うーん、この検温体験、ギックリ腰を差し引いても、ちょっとUXがよろしくありませんでした。
オフィスビルに出入りする人の平均身長は?
写真の検温用のカメラが設置されていたのは、オフィスビル玄関にあるエレベーター横。子どもが訪れる場所とは思えず、カメラを使うメインユーザーは大人と想定して問題ないはずです。しかしながら、前述の通りこの検温器が設定された高さは130cm。スムーズに検温できるのは身長にして140cmくらいの方かなと思います。
では、そもそも140cmくらいの身長の人って、どんな人でしょうか。「日本人 平均身長」で検索してみたところ、総務省統計局というところがデータを公開されていたので拝借してみます。
●年齢×性別の平均身長(平成24年)
なるほど、だいたい10歳、小学4年生くらいですね。どうもこの場所を訪れるメインユーザー層ではなさそうです。では、どのくらいの高さに設置するのがよかったのでしょうか? 改めてグラフを見ると、下段の方に【20歳以上】という数値がありました。
●年齢×性別の平均身長(平成24年)
なるほど、このあたりは参照できそうです。背の高い人はしゃがむことができますが、背の低い人が背伸びをするのは限界があります。男性/女性の数値を比べるなら、154.2cmを軸に高さを設定してみるのはよさそうでしょうか。
と、そんなことを考えてみましたが、この検温のUXをあげるには、高さだけじゃない要因も考える必要がありそうです。男性女性に限らず、平均身長よりもっと背の低い人が来訪したら? 車椅子の方は? もちろん少ないとはいえ、子どもが来たら?
この現場でUXをあげるためのアイデア
この現場を思い出すと「カメラが130cmの高さにあること」が問題なのではなく、「カメラが地面と平行にしか画像認識しない」ことが問題な気がします。では、この現場で検温のストレスをなくすにはどうすればよいでしょうか。
(1)カメラの高さをかえずに、上下広く画像認識できるようにする【カメラの問題】
(2)防犯カメラのようにもっと高く設置して、見上げるようにする【設置画角の問題】
(3)カメラの画角をユーザーが上下できるようにする。【カメラ雲台の問題】
(4)漫才のマイクよろしく、カメラスタンドの高さをユーザーが上下できるようにする。【スタンドの問題】
他にもいろいろ思いつきそうですね。今の機材でUXを上げるのか、機材の入れ替えが必要なのか、導入と維持のコストはどうなのか。そんなことも影響しそうですが、なにか今すぐ一工夫できることはありそうに思えます。
UX的には、設置してからが仕事
コロナ禍以降、検温は日々の生活の中で接する頻度が高まっています。生活の中で何度も繰り返すことだからこそ、一回ごとのUXはあげておきたい。だとすれば、検温機を設置することが仕事ではなく、設置してからが仕事、と言えるのではないでしょうか。
ユーザーを観察し、不満や負担があればもっとよいUXにできないかを考える。そこまでを仕事として捉えられるように、我が身を振り返りたいなと思った体験でした。
予断ですが、個人的には、漫才マイク型検温スタンドがあればやってみたいですね。検温と同時にギャグを言えばAIがその審査したりとかして。ブーっと鳴って「-30℃」とか表示されたりして。そのギャグは録音されて次の人に伝わったりして。集まったギャグは投票で評価されて、みんな検温することが楽しいものになったりして。あれ、考えるのがおしまいにできない・・
UXをあげるには、導入するまでより導入して“から”の方が大事