野球から見るデータ大活用、エクスペリエンスを高めるためのA/Bテスト。データと解釈の仕方とは
2021.05.19

野球から見るデータ大活用、エクスペリエンスを高めるためのA/Bテスト。データと解釈の仕方とは

野球観戦の醍醐味はグランドを駆けるイチローの姿

 写真はソフトボールをしていた小学校時代の私です。このあと中学にあがって野球部に入部したのが、ちょうどオリックスにいたイチロー選手の活躍初期で、私もなんどか球場に足を運びました。

オリックス球団の拠点だったグリーンスタジアム神戸は、日本におけるボールパークの先駆けでもありました。内野にも敷かれた瑞々しい芝や、DJがかっこよく盛り上げる選手紹介といったインパクトは、今でも映像・音声が脳内再生できるほどです。守備では外野を駆け回り、打っては塁間を駆け抜けるイチロー、かっこよかったなあ。

私が野球を観始めたころから数十年、今では楽しみ方も大きくかわったように思います。なかでも、テクノロジーやデータ活用は、想像以上に進んでいるのを知っていますか?

事例1:MLB、マウンドを遠ざける実験を独立リーグで開始…三振もホームランも減ると予想

 なんと、2021年シーズンの途中から、アメリカの独立リーグでは「ホームベースからマウンドまでの距離」を30cm伸ばすそうです。これには本当に驚きました。「えっ!そこ変えていいの!?」と。マウンドまでの距離などというものルールブックの基本のキ、変わることがあるなんて発想、私にはありませんでした。

とはいえ、この記事を読んで、私はとてもポジティブな気持ちになったのです。なぜかというと、野球をやってもきたし観てもきたファンの一人として、今回の取り組みは野球を「もっとおもしろくする」可能性がある、と感じられたから。記事に書かれている理由と背景を少し整理してみると、だいたいこんな具合です。

【起きている問題】コンタクトヒッティングやクロスプレーが減っており、ファンは不満を感じている
【問題解決の仮説】空振りとホームランの数を減らし、インプレー時間を増やす。
【解決のアイデア】マウンドをホームベースから30cm遠ざける
【評価・検証方法】シーズンの前半後半で分けてA/Bテストをする

独立リーグのミッションとは?

 想像するに、「ファンが楽しめる野球を提供する」というのは絶対あるでしょう。となれば、そもそも「ファンは野球のなにを楽しんでいるか?」つまり「ファンのUX(ユーザー・エクスペリエンス)を上下させる指標とはなにか?」を理解しなければいけません。

その上で、先の記事からは「インプレー時間が長さとファンの満足度は相関する」という結論が類推されます。

独立リーグではこうした数値化がなされているからこそ、評価すべきデータがわかり、打ち手のアイデアが出る(検討される)のでしょう。また、その施策の評価方法としても、きちんとA/Bテスト(ルール変更の前後を比較し、本当にファンの満足度があがるかどうかを測る比較テスト)も実施されるようです。問題の定義と仮説の立て方、施策と評価の流れがなんともわかりやすい。

なぜ、インプレー時間がUXに影響するのか?

 三振もホームランも、もちろん野球の醍醐味ですよね。それらをなくすことはありえないはず。ただ、個人的に思うことはあります。特に三振の場合、そのおもしろさが「瞬間的」だ、ということです。

バッターがボールを打ち、一生懸命走り、野手が捕球して送球、アウトか!? セーフか!? 審判のジャッジは!?……という手に汗握るシーンに比べて、ドキドキする時間が短いのです。

球場をイメージしてみると、三振は応援しているファンが瞬間に「ドッ」と沸く感じですね。ホームランもそう。でも、プレーが続いて「おっ? おおお? おおおおおおーーー!!!!!」と叫び続けるみたいな方がおもしろい。つまり、エクスペリエンスが高いのかなあと、そんなことを思いました。

事例2:チャンスはわずか3.3秒、成功確率10%のナイスキャッチ

 昔はテレビでよく観たプロ野球の珍プレー好プレー。ナレーションも面白くて好きでした。これも今や、データにより進化しています。これまでなら普通の「好プレー!」といった楽しみ方しかできませんでしたが、今はいろんなデータと共に楽しめる幅が広がっているようです。

こちら、Twitterにアップされたわずか1分の動画ですが、なんと捕球チャンス(Opportunity time)はわずか3.3秒、成功確率(Catch Prbability)は10%という難しい打球処理に成功したようです。データがあることによって、どのくらいすごいのかがさらに分かるんですね。改めてナイスキャッチ!

隠れていた価値が発見されるかも

 そういえば、大学時代の草野球チームでは、和気あいあいとした守備の練習の中で、めちゃくちゃ平凡な打球をいかに「好プレーっぽく」キャッチするかを魅せあう遊びをしていました。スライディング・キャッチ、飛び込み前転キャッチ、いったん遠ざかってから、あえてぎりぎりにしたキャッチ……。懐かしいです。

先ほどのTwitterに載ってたみたいなデータがあると、私たちがやっていた「捕る時だけ」難しそうな好プレーはどう評価されるのでしょうか。見た目はぎりぎりのスライディング・キャッチだけど、捕球チャンスはたっぷりある、成功確率は98%だよ、みたいな? それはそれで見てみたいですね。

さておき、こうしたデータが表示されることで、今までは見えなかった「好プレー」も見つけることができるかもしれません。まるでさらっと難しい打球を処理してしまうイチローのプレーのように。こうしたデータがあると、野球の楽しみ方の幅が広がるなあと個人的には思います。

野球のエクスペリエンス向上のためのデータ活用から見えてくること

 さて、今回は私の個人的な趣味から野球を取り上げましたが、どんな分野であれ、ユーザーのエクスペリエンスに影響するデータを見つけ、取得し、そしてエクスペリエンス向上の施策を考える。という流れが大事であり、今の時代の基本ではないかと思います。

ここで重要なのは、必要なデータというのは「今はまだ目の前にはない」可能性がある、という前提に立つことかもしれません。

本記事のアイキャッチのような、画素の粗い写真しか取れなかった時代では、そもそも「データ」なんてまったく取得されていなかったはずです。じゃあなんでこんなデータ活用ができるようになったかというと、決して技術の進化だけが理由ではないでしょう。

そもそも「なんのためにデータを取りたいか?」を考えない限り、技術の進化を活かすことはできないはずです。ただただ目の前にあるデータだけでなにかを生み出そう、という姿勢であれば、いまでもピンボケした施策が連発されているはずですから。

つまり、エクスペリエンス向上のための「データ活用」の一歩目とは、「解くべき問題を定義すること」それに尽きるのではないかと思います。問題の定義があるからこそ、仮説を立て、データを取得し、評価するというサイクルがまわせます。もちろん、野球でいえば新たな画像解析の技術があり、計算技術が生み出され、データ取得と評価を続けて精度をあげていくような経験の蓄積も大きく寄与したことは事実あるでしょう。とはいえ、先に問題の定義があるからこそ、テクノロジーの進歩が活かされるはずで。。

PPDACサイクルのススメ

 この「問題定義」から始まるサイクルは私が考えたもの……でもなんでもなく、「PPDACサイクル」と呼ばれ、今では小学生の教科書にも掲載されていると聞きます。

  P:Problem(問題を定義する)
  P:Plan(必要なデータと取得方法、評価方法を計画する)
  D:Data(データを収集する)
  A:Analysis(分析する)
  C:Conclusion(評価し、結論をくだして、問題定義に戻る)

さて、ここまで書いてみて、どうしてもわからないことが一つあります。それは、事例1で取り上げた「野球におけるファンの満足度を数値化する方法」です。これを把握するには、どんなデータをどのように取得し、どうやって評価すればよいでしょうか?

あれこれアイデアはありますが、どうにも決定打にならず……どなたかお知恵拝借できるとうれしいかぎりです。

UXをあげるデータ活用(PPDACサイクル)の第一歩は、まず提供したいエクスペリエンスを定義することから。データ取得と分析はそのあとで。

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