
充分な睡眠によって失われた、自分の時間
我が家には、まだ小さな子どもがいます。そのため今は、21時くらいから寝かしつけています。以前は子どもが寝たあとに起きて、自分の時間をとってましたが、近頃はそのままぐっすり朝まで寝てしまうことが増えてきました。
規則正しい生活と、充分すぎる睡眠時間を手に入れたはいいですが、子どもがいないときにこそやりたいことも多々あります。仕事もそうですが、大量の積ん読本も、気になるマンガやテレビまで、消化できないままに子どもと同じ睡眠時間をとってしまっているわけです。
健康なのはいいことですが、ちょっと早起きにチャレンジし、生活を朝型リズムにしようと決めました。毎夜毎晩、相棒のiPhoneに、せっせとアラームをセットし続けます。するとある日、iPhone画面にこんな通知が表示されたのです。
ちょっとしたWow! なSiriからの提案
いつものようにアラームをセットしようと画面を見たら、iPhoneアシスタントであるSiriからの提案が表示されました。なるほどこれは便利だなと思いスクリーンショットしたわけですが、ふと「これ、私にとってなにがWowだったのかな?」と考えてみました。
Siriからの提案、つまりレコメンドによって、私のユーザー体験はどう変わったのか。
●Before:5ステップ
(1)iPhoneロック解除
(2)toolフォルダをタップ
(3)時計アプリをタップ
(4)アラームを選択
(5)時間を選択(もしくは編集)してアラームをON
※toolフォルダは個人で作成しているので、ない人はスキップ
●After:3ステップ
(1)通知をタッチ
(2)iPhoneのロック解除
(3)アラームをON
……ということで、必要なステップ数が減りました。Afterのステップはややうろ覚えではありますが、とにかく「楽チン」になったからWowですし、さらに「ちょうどよいタイミング」だったことが、いっそうWow! でした。
このレコメンド、でもどうやって?
機械学習を使ったレコメンド機能自体、今や多くのサービスに実装されています。特段意識することがないだけで、スマホをタッチすればそこはもうAIの世界。さまざまなレコメンドであふれています。
レコメンド機能は【データ】をもとに【最適な内容】を【最適なタイミング】で出すのが、(どうやら)ポイントです。どれが欠けても上手くいきません。
例えばこんな体験はありませんか? 「興味あるけど今じゃない」とか「今なんだけどソレじゃない」ということ。私の場合、3年前に買った祭り足袋を、いまだにレコメンドしてくる某巨大ECサイトは馬鹿じゃねえかと思ったりしてます(ほんとに)。「検索しなくなった」というデータも学習しておくれよ。
それはさておき、前述の「Siriからの提案」も、当然ながらデータからレコメンドが発生しているはず。ならばその裏側では、いったいどんな処理がなされているのかを、ちょっとあれこれ妄想してみようと思います。
どんな【データ】をとっているのか?
・過去にアラームを設定した時間(過去、起きたかった時間)
・今回、アラームをONにした時間(今回、起きたい時間)
・時計アプリ、アラーム設定の操作をした日時(タイムスタンプ)
・上記時間の差分や頻度、パターン
このあたりまでは、まあ想像がつきそうですし、こんな風にデータを並べてみれば【最適な内容】のイメージもわいてきます。でもiPhoneですからね。プライバシー設定の制約をいったん脇におけば、こんなデータだってとれるかもしれません。
アラームを設定する「前に」開いていたアプリの情報(行動パターンの推測)
アラームを設定する時のジャイロ情報(寝転んでるかなど)
アラームを設定しているときの位置情報(普段と違う場所にいたら、アラームレコメンドは出さないかも?)
こうやって妄想してみると、【最適なタイミング】のアイデアも広がります。さらに、iPhoneを持ってるのは私だけではありませんので、なるべくたくさんの人にレコメンドを試してみて、もっともSiriからの提案が受け入れられたタイミングを調整していくことになるでしょう。
データは提供したくない。でも…
上記の想像から見えてくる事実は、「自分のデータは提供したくないけど、自分からデータを提供しなければ、Wowなエクスペリエンスは返ってこない」ということです。
ただ、「わたしのデータ」を企業が把握するのは嫌、という人もいます(それも、たくさん)。自分がアラームを操作したときの時間が記録されてるなんて、なんだか気持ち悪い! と。ユーザー目線では、何どう使われるかわからないままでは、「自分が提供するデータを最小化したい」圧力がかかるのも当然かもしれません。
一方で、データを提供することで「よいエクスペリエンスが期待できる」こともあります。控え目に表現しましたが、現実には「データを提供しない限り、よいエクスペリエンスが返ってこない」とも言えます。
この塩梅を考えるに当たって思うのは、自分や周囲の「よい体験」を「データ・テクノロジー目線」で眺めてみて、「こういうエクスペリエンスがあるならデータを提供しても良いかな」という範囲を広げていくことかもしれません。そういった経験が、ユーザーとしてのリテラシーを高めていくことにつながるでしょうし、サービサーとしてデジタル活用を考える際のヒントにもなるのではと思います。
自分のWow体験の裏側に、どんなデータやデジタル活用がされているのか考えてみる。そしてさらに快を高め、不快を減らすために何ができるかを。