海外UXギャップ:コロナ禍におけるフランスは【後編】
2020.12.30

海外UXギャップ:コロナ禍におけるフランスは【後編】

外出証明書のUX

(※前編はこちら)

 ロックダウン中でも、生活必需品の買い物には行けるし、一時間以内なら近所で散歩やスポーツもできる。学校や仕事に行くこと、医療機関にかかること、介助・介護に出向くこと、ペットの散歩なども許されている。

ただし、いずれの場合も外出時にはPDFの「証明書」を持参する必要がある。

証明書の作成は簡単だ。(1)スマホで政府の特設サイトにアクセス、(2)名前、生年月日、住所などを入力、(3)用事リストから該当するものにチェックを入れ、(4)最後にPDF生成ボタンを押して完了。そこで表示された画面が「証明書」になる。後はそのスマホを持って出かければいい。

しかも(!)何度か証明書を作成すると、入力内容が記憶され、3タップで済むようになる。UXが良すぎて証明書を発行そのものを忘れそうになるほどだ。

ロックダウンスタート

 ロックダウンが始まると、スーパーやパン屋、薬局といった生活必需品以外の店は閉まってしまう。そのため、ロックダウン前日に洋服を買いに出かけた。寒さが本格的になる前に秋冬物を入手しておかねば! と、考えることは皆同じだった。

 H&Mのレジの行列。服屋はどこも混んでいた。美容院も忙しそうだった。

 ロックダウン前日の広場。カフェのテラス席ではマスクを外して会話している。

 ロックダウン後の同じ場所。がらんとしていて寂しい。私は一度目のロックダウンを経験していないので、こんなに静かな広場を初めて見た。

ロックダウン中の買い物

 ロックダウン2日目、最寄りの大型スーパーマーケットに行くと、トイレットペーパーが売り切れていた。しかし、次に行ったときにはきちんと補充されていた。特定の商品が不足して困るという問題は、今のところ発生していない。

 スーパー内にある衣類売り場は利用できないようになっていた。生活必需品ではないということだろう。

 マルシェは規模は縮小しつつ、続いていた。スーパーでもそうだが、野菜や果物が剥き出しで置かれていて、客がぺたぺた触る。皮を向いたり、火を通したりすればまあいいかなと、私は気にしないようにしているが、売り物を触らせない出店もある。

 よく行くパン屋では、自動のレジが設置されていた。これなら会計の際に店員が現金に触れなくていい。

 薬局は営業しており、出入り口にコロナ検査小屋が設置されるようになった。PCR検査ではなく、15分程度で結果が出る簡易的なものだ。ただ、利用している人を見たことはない。

ロックダウン中の外食

 ロックダウン中も、料理の宅配やテイクアウトはできる。ピザ屋やケバブ屋などは普段よりも忙しそう。テイクアウトできる料理屋が多い通りは、ウーバーイーツなどの宅配員が忙しなく行き交っている。

 店先に机を置いて営業をしているレストランやバーもちらほら。店を開けているのはアジア料理やタパス、イタリアン、カレー屋など。テイクアウトに向いていないからか、フランス料理屋は基本的に閉まっている(2020年12月現在)。

 夜はホットワインを販売する店もあり、客が店の前で立ち飲みしていたりする。

 料理メニューを縮小し、食材を売るレストランも出てきた。レストランやバーもさまざまな工夫をし、ロックダウンを乗り切ろうとしている模様。

 ある晩、テイクアウトの夕飯を買った帰り、「Restos duCœur(心のレストラン)」という、フランス最大のボランティア団体が活動しているのを見かけた。1985年にコメディアンであるコリューシュが立ち上げた団体で、失業者やホームレスに食事を提供している。ロックダウン中も支援は続いているようだ。

個人差がある危機感

 とある週末、近所の公園へ散歩へ行くと、たくさんの人がのんびり過ごしていて、ロックダウン中といえども、平和な日常の風景があった。

この公園でもそうだったが、ジョギング中の人はマスクをつけていない。息があがっているのにマスクをつけるのは無理がある。私もジョギング中はマスクはアゴにひっかけて走り、人とすれ違うときだけつけているが、そのせいで警察に止められたことはない。

こうして見ていると、この町の人たちは、感染のリスクをさほど気にしていないように感じる。しかし、まれに慎重な人にも会う。

ある日、夫と一緒に出かけようとマンションのエレベーターを待っていたら、上の階から降りてきたエレベーターに高齢の夫婦が乗っていた。私たちが乗り込もうとすると、自分たちのマスクを指差し「désolé(ごめんさい)」と言われ、断られた。エレベーターに4人も乗ると密になるからだろう。また別の日、その夫婦のご主人が、マンションのエントランスでマスクをしていない人に注意しているのを見かけた。コロナに対する警戒心には個人差があるようだ。

フランス語の先生からのありがたいメール

 コロナ禍のフランスでは、毎週のように更新される規制を把握し続ける必要がある。情報は当然ながらフランス語で発信される。

SNSやニュースサイトで日本語訳が読めるし、完璧ではないがGoogle翻訳もある。夫の職場でも情報が共有されるし、日本国総領事館からもメールが届く。最新情報を漏らす心配はない。それでも、フランス語が理解できないことはやはりハンデだ。

そこでありがたいのは、フランス語の先生が何かと気にかけてくれることだった。私が習っているフランス語教室は、地元に住む女性2人が運営している小さな教室で、大手企業よりも先生と生徒の距離感が近い。おすすめの店や地元のお祭りのことなど、ローカル話ができる関係だ。

彼女たちは、私たち生徒、つまりこの町に住む外国人に、コロナに関する重要な情報をいつも一斉メールで知らせてくれる。親しみのあるレイアウトと、平易なフランス語で。例えばこんな感じに。

「みなさんこんにちは。マクロン大統領は昨夜、これらの新しい封じ込め措置を発表しました」と始まり、内容の説明が続く。

レッスンのときは「マクロン大統領 は次の演説でこんな発表をするんじゃないか」といった巷の噂まで教えてくれる。それから彼女自身の考えや気持ち、家族の様子なども話してくれる。「ずっと家にいるのは疲れる」とか「人混みは不安だ」とか、自分と変わらない。

このコロナ禍で、フランスの一部でアジア人差別が起きているというニュースも耳にする。非常時を海外で、マイノリティー人種として過ごすことに、不安がないわけではない。フランス語の先生とのつながりは、そうした不安を和らげてくれた。

長期戦になっているコロナとの戦い。じわりじわりとストレスは溜まる。けれど、こんなときこそ工夫して働いている人や、親切な人を見習って、感染対策はもちろん精神的にもコロナに負けずに過ごしたいと思う。

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