海外UXギャップ:コロナ禍におけるフランスは【前編】
2020.12.23

海外UXギャップ:コロナ禍におけるフランスは【前編】

バカンスは止まらない

南仏のとある町に、私は住んでいる。2020年6月に渡仏し、翌年の秋には帰国予定。なので、南仏暮らしはあくまでも一時的なものだ。それでも、いや、だからこそ、有事における日本と海外(フランス)とのUXギャップを肌で感じる。

ロックダウンが宣言されてからは落ち着きを取り戻したが、フランスのコロナ感染者は一時、日に3~5万人、ピーク時には8万人以上にまで達した(累計ではなく、一日の感染者数がだ)。日本の約半分(約6700万人)の人口にもかかわらず。

これほど感染が拡大した原因の一つには、おそらくバカンスがある。

フランスは3〜5月に一度目のロックダウンを経て、一日の感染者を数百人にまで減らすことに成功した。その後7月〜8月のバカンスシーズンには、町は休暇を楽しむ人々で溢れていた。

コロナ的にはNGな密集状態。みんな食事のためにマスクを外している。歩いている人もマスクをしていないことが多い。

南仏の夏は日没が21時過ぎにまで延びる。そのため、夜遅くまで家族や恋人、仲間と酒を片手におしゃべりに興じるのが彼らの文化だ。

開放的で楽しいひととき。コロナがなければ最高なのに。

随時更新される細かな規制

バカンスに入り、フランスはどうなっかた。無論、再び感染者が増え始めた。そんなこと、火を見るよりも明らかだった(だがフランスに、バカンスを止められるフランス人などいないのだ)。

「再ロックダウンはできるだけ避けたい」とする政府は、マスク着用を義務化、夜間の外出を禁止など、様々な措置を取った。違反すると135ユーロの罰金も課した(約17,000円ほど。2020年末現在)。

それらの措置は、状況に合わせて随時更新された。マスクの着用一つをとっても、以下のように随時規則は更新されていった。

 07月20日〜:11歳以上の者は屋内公共空間でのマスクの着用を義務化
08月08日〜:屋外であっても都市部の特定の場所ではマスクの着用を義務化。例えばマルセイユの場所Vieux Port周辺(日中)、Escale Borely(夕刻以降)、Cours Julien地区とla Plaine(夕刻以降)
08月15日〜:マスク義務エリアを拡大
09月01日〜:オフィス内でのマスク着用を義務化

ご覧の通り、場所や時間帯などが細かく指定され、義務化されていく。フランス人は元来マスクをする文化がない。まして灼熱の太陽が照りつける夏季、日本人の私でさえマスクの着用には辟易していた。

マスクを持って出かけても、バッグに入れたり、腕にかけたりしたまま。マスク義務エリアに入っても、着け忘れる人が多かった。見回り中の警察に見つかると注意される。私も注意されたことがあるが、速やかにマスクをつけるかその場を立ち去れば、いきなり罰金を取られることはなかった。

イベントか、コロナか

そんな中、8月29日〜9月20日には「ツール・ド・フランス2020」がニースで開催された。コロナの影響で二ヶ月遅れたものの、よく開催するなと驚いた。写真は、先頭走者を待つ群衆。

バカンスシーズンは毎年、フランス各地で数多のイベントや祭りが催される。国内の観光地を何箇所か旅行したが、中止になっているところもあれば、規模を縮小したり、コロナ対策をして開催するところもあり、対応はまたまちだった。ただ、いずれの観光地も人で賑わっていた。

結果、8月初旬には1000人程度だった一日の感染者数は、9月に入る頃には5000人程度にまで増え、10月頃には再び1万人を超えていた。

再ロックダウンでも人気店は満席

10月5日以降、レストランやカフェに入ると「cahier de rappels」というノートに、名前と電話番号、日付を書くよう頼まれた。感染が発生した際に連絡をとるためだ。

その他、テーブルの間隔を1.5m以上とる、支払いはテーブルで行うなど、政府が示したコロナ対策を実施した上で、飲食店は営業を続けていた。客はたいして減っていなかった。人気のある店は、いつも通り満席だった。

10月17日からは、特に感染者が多い特定の街が、夜間(21時〜翌6時)外出禁止となった。24日にはその範囲がさらに拡大した。

外出禁止時間が迫るときの街の様子。家路につく人々の背中が寂しそうだった。

いつも深夜まで賑わっているカフェバーも、早々と店じまい。

それでも10月下旬には一日の感染者は3〜5万人に上り、とうとう10月30日、二度目のロックダウンが開始となった。

他人の目で行動する日本

このように、フランス政府は再ロックダウンに至るまで頻繁に、かつ詳細な規制を設けてきた。それでも感染拡大は止められなかった。

日本の政府はどうか。「自粛の要請」「三密を避ける」など、その対策は漠然としており強制力もない。にもかかわらず、日本の感染者はずっと少ない(人口は倍近いのにだ)。

生活習慣や衛生観念、 風土……さまざまな要素が原因として考えられるが、先日、日本の友人とZoom飲み会をしているときに、こんな心境を聞いた。

「コロナにかかるのは構わないけれど、職場で最初の感染者にはなりたくない。だから気をつけている」

コロナ禍の日本は、人々が相互に監視し合っている状態なのかと思わせる発言だった。それが各自の自粛を促し、感染拡大を防いでいるのかもしれないと。

個人の権利を尊重するフランス

フランス人だったら? と考えてみる。「願い求める」という意味の「要請」で、この町の人たちは自粛するだろうか。自由・平等・友愛の理念を掲げ、個人の権利を尊重するフランスで。一日1万人以上の感染者が出てもなお、レストランが満席になるこの町で。

政府の「要請」は通用するだろうか。

しないだろう。フランスでは明確な規制がなければ、人々の行動は(恐らく)変えられない。だからこそ、罰則を伴う厳しい措置が、仕方なく導入されているのだ。

……以上はフランスとはいえ、私の住む人口14万人の町での話だ。パリのような大都会、あるいは山間の小さな村々とは、人々の意識や状況に差があるかもしれない。フランス全域の話ではないことは留意いただきたい。

(後編へつづく)

関連記事