スマートスピーカーのUXは子ども世代の洗脳装置か?
2021.03.03

スマートスピーカーのUXは子ども世代の洗脳装置か?

 使っていますか? スマートスピーカー(音声アシスタント)。ぼくは「OK, Google」でおなじみの、Google Home Miniをリビングに置いています。朝起きると、窓を開けにリビングに行き、そこで「OK, Google 今日はどんな日?」と話しかけるのが日課です。

Googleアシスタントに「今日はどんな日?」と訊くと、設定してある事柄を教えてくれます。気温や天気だったり、カレンダーを同期しているならスケジュール、それから職場までの交通機関の情報、ニュースを読んでもらうこともできます。

料理も手伝ってもらいます。「OK, Google 5分タイマー」と言うだけで、両手がふさがっていたり、粉まみれになっていても、「5分ですね、スタート」とスマートにサポートしてくれるので助かります。

でも、ぼくの友人には「便利だけどやめた」という人もいます。理由を聞くと……たしかに、と頷かずにはいられませんでした。そして次第に、ぼくのなかにも、スマートスピーカーを使いつづけることで変化してきたことがあります。

子ども世代に与える心理的影響

 ある日、友人の経営者がスマートスピーカー(Google Home)を家からオフィスに持ってきました。理由を尋ねると「子どもがね」と。「ああ、お子さんが遊ぶからですね」と言うと、彼は首を横に振りました。

「子どもが、洗脳されるような気がして、怖くなったんだ」

洗脳?

「子どもがさ、毎日毎日、“OK, Google”、“OK, Google”、って話しかけるんだ。内容自体はくだらないよ。どうでもいい計算をさせてみたり、どうでもいい地域の天気を訊いてみたり、なぞなぞをやったり。最初は可愛いと思ってたんだけど……」

なにか問題でも?

「ふと、この子がこのまま大きくなったら、どうなるだろうと想像したんだ。物心がつかない頃から、“OK, Google”と日々連呼して育ったらどうなるか。きっと“Google”は便利という以上に、心理的に味方で、友だちで、疑うことをしない気がする。それはある意味“洗脳”じゃないのかって……」

これは果たして“洗脳”だろうか?

 “洗脳”とは何か? 定義としては「他者(洗脳者)が相手に対して、本人ではなく他者(洗脳者)の利益のために、脳内に意図的な情報を書き込むこと」です。ポイントは「他者の利益のため」です。もしこれが「本人の利益のため」であれば、それは“洗脳”ではなく“教育”と呼ばれます。

では、先ほどの“OK, Google”問題は? これは果たして“洗脳”かどうか。“OK, Google”と呼びかけるのは、Googleアシスタントを起動させ、こちらの要望に応えてもらためです……が、“OK, Google”と毎日連呼すること自体は、本人ではなくGoogleに利益がある行動です。

Googleだけに限りません。AppleのSiri、AmazonのAlexa、LINEのClovaなど、皆同じです(後述しますが、音声アシスタントAI名が、企業ブランド名になっているのはGoogleだけ)。

これは“洗脳”かどうか……とても微妙な問題です。

便利とディストピアの境

 「すべての会話を聞かれている(収集されている)のではないか?」

スマートスピーカーを持つ人なら、誰もが頭に浮かんだことのある疑問だと思います。実際、いつくかの問題点も時折取り沙汰されます。でも、人は慣れる生き物です。そして、一度手にした便利で快適な生活を、手放すことはなかなかできません。

単にGoogleの検索機能の向上、サジェスト機能の向上でしかないのでしょうが、昔に比べて格段に検索しようと思っていたものが、かなり早い段階で表示(アシスト)されることが増えてきました。

リビングで家族や友人と話していた内容について検索しようとしたとき、それがこちらの体感よりも数段階早くサジェストされると、「便利!」以上に「不気味!」と感じてしまいます。それこそ「会話を聞かれてたんじゃないか?」と疑ってしまいたくなるほど……。

この便利な世界(体験)は、どんどん拡大していくでしょう。あなたにとってそれは、手放しで喜ばしいことでしょうか。それとも、ぼくと同じように、少し不気味さを感じてしまうでしょうか。

名前を呼ぶというUX

 これまで、つまり音声アシスタントAIが登場するまで、なにか道具を利用するために、対象の企業名なり固有名詞を呼ぶ必要があったことはありません。

「セイコー、いま何時?」と腕時計に話しかけることもなければ「モンブラン、インクを出して」とペンに伝えることもありませんでした。名前を呼ぶのは、親しい間柄だけです。まして、連呼するのは。

日々ユーザーによって名前が呼びつづけられる企業と、そうじゃない企業。どちらがより大きな脳内シェアを築けるか。そしてそれを自社の利益につなげられるか。考えるまでもありません。今後はもっと、名前を呼ばなければ使えない道具(商品・サービス)が増えるのか、主流になるのかは、わかりません。

ただ、一つたしかなことは、ぼくはその未来に、残念ながらわくわくしません。むしろ、うんざりします。

余談(音声アシスタントの裏話)

 2018年にアメリカのGoogle本社に行きました。そこで現役のGoogleエンジニアと話をしたときに、興味深いことを聞きました。彼はこう教えてくれました。

「これから音声アシスタント主流の時代が来る。Amazon、Apple、LINEもこぞってAI開発に力を入れている。でも、音声アシスタントの名前に企業ブランド名を付けたのはGoogleだけだ。なぜか。リスクヘッジのためだ。“OK, Amazon”と話しかけて、まるで役に立たなかったら、Amazonの評判に傷がつく。だから企業名と音声アシスタント名は別にした。分離させた。Alexaが馬鹿でも、Amazon本体とは関係がないと思わせる作戦だ。でもGoogleは違う。Googleだけが、最初から本気だ。」

信じるか信じないかは、あなた次第です。

その新商品やサービスは、子ども世代の幸せな未来をつくっているか。

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